労務リスク管理の本当の目的

館長の意見

労務リスク管理の最大の目的は、単にその事象が発生しなくなることではないと私は考えます。経営上の問題をクリアするために別のリスクをとらざるを得ないこともあるからです。例えば日頃から相当問題のある従業員が会社の内部機密や風評を外部の第三者に言いふらしていたり、横領をしたりして会社に損害を与えた、あるいは与えかねない行為をした場合、就業規則上の懲戒の事項を根拠に相当な処分をすることが考えられます。ケースによっては解雇もやむを得ない場合も出てくるでしょう。ただし懲戒解雇に当たると判断したからといって、解雇予告なしでその当人を解雇できるかというと、これが中々難しいのです。

リスクの考察(懲戒解雇を例に取って)

解雇手当の免除や解雇予告をしないで解雇したい場合は、「労働者の責に帰すべき事由」に基づいて所轄の労働基準監督署長に「解雇予告除外認定」を受ける必要があります。しかも「解雇予告除外認定」の判断基準も、これだったら即時解雇でも仕方ないと通常人が思えるぐらい重大な行為でなければ役所は中々認めてくれません。数十年前に出された厚生労働省基準局長からの通達がこれらの判断基準になりますが、労働契約法という法律にも明文規定があり、第16条で「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定めています。

つまり問題社員の解雇というリスクを排除する行為が、懲戒解雇の是否をめぐって労使トラブルに発展するという新たなリスクの発生を生み出してしまう可能性がありうるのです。懲戒解雇は最もセンシティブな問題なので例として挙げたのですが、懲戒解雇以外でもやはり会社側の恣意的な判断でリスク排除をするのは難しいのです。

リスクは排除しない?!

労務管理上の様々なリスクを解決するには、就業規則など諸規程に条項を規定しておくことは最低限必要ですが、それだけではなくリスクの発生原因を分析し改善策を検討し、規定に盛込んで運用・管理していくことが重要です。

リスクを管理する過程で問題点の洗い出しを皆が周知すれば意識が高まります。意識して対策を取ることで問題を改善する職場風土が形成されていけば、おのずと業務効率も上がりますし、各自の能力を最大限に発揮することも可能になります。それを会社全体に広げることで全社的な業績向上につなげるのがリスク管理の最終目的であると考えます。

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