就業規則とは、その事業所の労働者の様々な労働条件全般について、きめ細かく約束事を定めた「職場のルールブック」です。本質的に使用者と労働者は相対立する立場にあるので、互いの主張がぶつかるのはある意味当然のことかもしれません。
その場合何か根拠になるものが存在しなければ、単なる主張のぶつけ合いが大きなトラブルに発展してしまう可能性は極めて高いといえるでしょう。そのために客観的な指標としての「ルール」が必要になるわけです。野球やサッカーに例えるならば審判やルールが無くて、選手が勝手気ままに自分の判断でゲームをするような感じですね・・
会社は多数の人間で構成される組織体です。スポーツ以上にシビアで残酷な社会の中で競争しているので、指標がなければ組織がまとまるのは不可能でしょう。だから客観的な指標としてのルールが絶対に必要なのです。
労働基準法は労働者を保護する要素の強い法律です。理由は様々考えられますが、大きな理由として「労働者の従属性」と呼ばれる概念があると思われます。歴史的な背景からみても会社と労働者は必ずしも対等ではないので、より弱い立場の労働者に有利な条項を定めたといわれています。
就業規則はこの労働基準法をベースに作成されます。会社によっては厚生労働省のHPからモデル就業規則をダウンロード、あるいは本屋さんで販売している本のひな型をそのまま会社の就業規則として使用しているというのをよく耳にします。私自身もいくつかモデルから引用したと思われる規則を目にしたことがあります。正直申しまして、大変怖いリスクの根源であると言わざるを得ません。
例えば、以下に挙げる条文はどこがリスク・トラブルの元になりうると思いますか?
等々
会社は勿論のこと、労働者からしても無用なトラブルに巻き込まれる根拠を与えられてしまうので、実は最終的には双方にとって実質的にマイナスの結果となることが大変多く、全社的に捉えた場合のデメリットは計り知れません。モデル就業規則ではないにしても、人事労務の専門家でない者が作成したものではやはり同じような結果になる可能性が高いのです。何故なら条文の根拠を精査せず、リスクがどこに存在するかを考慮しないで作成されるからです。また、ひな型規則だと各会社の実情に即した適切な内容が反映されない場合があり、書いてあるために問題が起きた!?という逆パターンにもなりかねません。
ただ就業規則は法定された事項を押さえておけば行政官庁(労働基準監督署)は受理しますので、手続・届出さえ正当に踏めば有効なものとして存在根拠を与えられます。役所としては中身を精査するというよりは法定事項が記載されているか、法令や労働協約に違反していないか、労働者の意見が反映されているかを見ますので、そこをクリアすれば就業規則として根拠を与えられる(与えられてしまう)ということになるでしょう。なお、厳密には事業場で労働者に規則が周知されることが効力の発生要件となります。
上記でお話したように就業規則の規定の仕方によっては大きなトラブルになる危険性があるのですが、特に文言は重要です。重箱の隅をつつくぐらい細かく文言を考慮することが実はトラブル予防につながりやすいといえるでしょう。
いざ裁判や労働審判、労働基準監督署の調査といった事情が生じた場合には必ず就業規則
あるいはそれに付随する各種規程をチェックされます。そのぐらい就業規則は労務管理上重要な根拠としての位置づけを与えられています。事業所規模によっては作成義務のない会社もありますが、できれば作成されることを強くお勧めします。
ただし就業規則その他の規程は万能ではありません。規則があるからといって絶対に問題は起きないとか、裁判に勝てる、というわけではありません。しかし対策を徹底的に盛込んだ規則によってリスク発生の確率を極力少なくすることは十分に可能なのです。
就業規則は使用者をしばるものでも、労働者をしばるものでもありません。統一されたルールの下で無用なトラブルを予防し、リスクを管理することによって経営者は本来の経営活動に専念していただき、また従業員が安心して働ける環境を整えてもらうために適正な就業規則が存在するものと私は考えています。
適正な就業規則を整備し、加えて公正な人事制度を策定することが、従業員の能力とヤル
気を引き出し、会社の業績向上につながることがこの徹底リスク管理に重きを置いた就業
規則・諸規程の最大の目的です。
ぜひこれから就業規則の整備・見直しをご検討されている企業様にリスク対策を十分に
考慮した就業規則をご提供させていただきたいと考えております。